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天海春香と吊革さん (誰得シリーズ その1)

・はじめに
誰が得するんだシリーズ 第一弾。
765プロのアイドルたちと一般人(俺)との交流話。
まあ妄想ですから。
プロデューサーさんは影ほども出てこない。
それでもよければ続きから。とりあえず全編あげました。
――――――――――――――――――


 唸る程電気を食って、鉄塊がプラットフォームを滑り出して行く。


この鈍行電車があと三回ほど同じ動作を繰り返せば、従順な社会の働き蟻たる俺もこの人波地獄から解放されるだろう。
――ただいま時刻は通勤、通学ラッシュ真っ只中の午前7時14分。
――ただいま現在地は通勤、通学ラッシュ真っ只中の電車。ついでに言うと出入り口付近。


ありたいていに言えば、寿司詰めされた米粒の気分を絶好調に味わっている次第である。

通勤、マジしんどいです父上。とまあ心の中で愚痴ってみたりする。
一年間の就職活動を経てそりゃもう立派に、どこにでもいるありふれた会社員にクラスチェンジした自分だが、
こうも毎日毎日満員電車で揉みくちゃにされれば、ふるめき立っていた労働意欲も萎えると言うものだ。

それに加え、

(……運転下手くそだな、この運転手……)

仕方なく乗っている電車が暴れ馬よろしくガコンガコンと必要以上に揺れているとなれば、士気半減などという所ではない。

(……下手くそー)

心の中で毒づいた。
ため息をそろりと零し、鞄を持ち直して銀色の手すり棒につかまる。
見計らったかのように再度ガコン、と音を立てながら再度電車が変速した。衝撃。慣性の法則で体は右へ。

(やっぱり慣れてねぇな……新入社員かよ、ついてねぇ……)

―― さて、俺がそうもう一度心の中で毒づくのと、再度鉄塊が変速するのと、衝撃と、 慣性の法則で一人の少女が俺の胸元にしな垂れかかったのは、同じタイミングだった。……ような気がする。だからまあ、俺に非はない。ないんだ。


    天海春香と吊革さん。


「……! す、すみませんっ!」


頭一つ分下から、そんな声が聞こえて来た。
おっ、と目を見開けば、自分の胸元に柔らかな感触がある。
声につられ視線をそちらに落とせば、髪質の柔らかそうな鳶色の髪が飛び込んで来た。

「あ、あの、ごめんなさい……」

女の子だった。

満員御礼の鉄塊の中、視線が合わさる。
――赤いリボンが印象的だな、がファーストインプレッション。
なるほど、じっくり見れば顔のパーツ一つ一つは大変に整っている、が、その……なんというか、うん。彼女はごくごく『普通』の女の子だったのだ。

「あ、うん……」
「あはは、すぐ退きます! その……大丈夫ですか?」

俺の胸元に寄りかかりながら彼女が申し訳なさそうに女の子が言ってくる。
身動きの取り辛い満員電車故に、上目使いだ。

「大丈夫だよ。君は?」
「はい、その、大丈夫です!」
「そっか。ならよかった」

出来るだけ厭らしくならないよう努めて笑いかけると、頭一つ分下の彼女もほわりと笑い返してくれた。

……今日は良い日になりそうだ、などと現金なことを思う。

最近若い女の子との接点がなかったしな。これは男の性だろう。
この思考、誰にも非難される筋合いはないはずだ。もちろん、この電車の運転手にも。

ガコン、と。
俺への戒めとしか思えないタイミングで、ふいに電車が速度を変えた。
車内から何人かの悲鳴があがり、ぐらりとほぼ全員が体制を崩す。
そしてそれは、先ほどの女の子も例外ではなく、

「きゃあ!」

可愛らしい声と共に、彼女は俺の胸元に再度寄りかかってくるのだった。
……訂正しておこうか。これはずいぶん役得だ、なんてムフフな思考がよぎる。

「ごごごごごご、ごめんなさい……!」
「いや、大丈夫だから」

随分と大袈裟な彼女の謝り方に、思わず苦笑が漏れた。

そしてそれから、何秒かの沈黙があった。

ガタンゴトンと電車がレールを踏み、お互いに所在ない、どことなく気まずいような時間が過ぎる。
ずいぶんゆっくりとした時間経過。

「あ、あの……」

そんな折、頭一つ分下の女の子が切り出してきた。
彼女は言い難そうに何やら口の中でもごもご言い、

「あ、あの……」

と、切り出したのだった。
それは彼女なりに、とても勇気のいる質問だったのだろう。
たった一言、ただし顔を真っ赤にさせながら、恥ずかしそうに赤いリボンの彼女が言う。



「捕まらせて貰っても、いいですか……?」


全世界が停止したかのように思われた、なんて誰かの言が脳みそを駆け巡り、
理性に一蹴された思考回路は

『あの、もしかして君ナンパ師さん?』

などと、どこぞのボーイッシュガールが言いそうなセリフを吐き出しそうになっていた。
無論欲望のまま言い出すことなどできず、俺は喉の辺りで必死にとめる。

言葉を探してどもる俺。
不安げに見つめてくる女の子。
ガコンガコン。間抜けなBGM。

「…………」
「…………」

見つめ合い、数秒。

「えっと、」

なんとか回復した俺の口から出てきたのは、

「最近の子は、大胆なんだね」

とまあ三流AVで聞けそうな底意地悪い言葉だった。

「…………」

俺が吐いた言葉の意味を女の子が理解するまで、
少なくとも何秒かのタイムラグがあった。

あとは……この通りだ。
彼女は惚けたような表情を晒した後、何の予兆もなく一気に、そりゃ耳まで綺麗に『ぼんっ』と赤くなった。
胸元に置かれた彼女の華奢な手をサーモグラフィーで見れば真っ赤だろうな、ってくらいに。
それから、

「あわわわわわっ! 違っ、違うんです!
 そういう意味じゃなくてっ、ああ~っっ!」

いきなり大声が上げられたのだった。

「うぇ!? あ、ごめん、こっちこそ違うんだ! てか声……っ」

流石にびっくりしてしまった俺。情けなくも肩を震わせてしまう。
いや、だって、腹式呼吸、と言うのだろうか。
女の子の声は、人間の耳にすんなり入ってくるデジベルで発せられた。
ああ、それが二人きりの空間なら別に問題ではないのだが……
散々言っているように、現在地は満員電車である。
しかも人口密集地の出入り口付近。

『視線がささるってこう言うことだったんだネ!』
なんて軽い現実逃避でもかましてしまいたくなるって話だ。

「あぁっ! すす、すみますん!!」

周囲の視線の意味と囁き声(痴漢? やだぁ……)に気付いたらしい女の子が
盛大に噛みながらも謝ってくる。

……なにこの袋小路。


「はあ」

――寄りかかった船だったから、と言えばただそれだけだった。
確かに、常識的に考えれば初対面の子に「胸を貸して下さい」と言われ、
あまつさえそれを承諾するなど不誠実極まりない。
だが、その行為を許してしまう程の愛嬌、というか、
『守ってやりたい』と言う衝動を起こさせる何かが彼女にはあったのだ。

……まあ、下世話な心がなかったとはいいきれない。男の子だもん。


あ、あと付け加えるのであれば第三の理由として――

「……いいよ」
「え……?」

「捕まって貰っていいよ」
「あの、でもでも……」

かすかに首を降る彼女に、俺は笑いかける。
10センチしたで、女の子の赤いリボンが揺れていた。
俺は言う。

「俺、まだ社会的に死にたくないから」

そう。第三の理由。
目の前彼女によってふっかけられた冤罪を晴らす為だ。
ここらで仲良しアピールでもしておけば、なんだカップルの痴話喧嘩かくらいの認識になるだろう。
だって、さっきからひそひそと聞こえてくる(痴漢?)単語は(きもーい……)中々(あのリーマン?)堪える。

「あ……はい。うぅ……ごめんなさい」

おう、中々聡い子で助かった。
俺が含んだ言外の意図に気付いたようで、女の子はしょぼくれたように伝えてくる。


「…………」

もう何度目かの沈黙が蚊帳のように降りてきて、それから女の子は

「失礼、します」

ゆっくりと頷き、
覚悟でも決めたよう寄り添ってきたのだった。

「――ありがとうございます。あの、次の駅で降りますから」

それは囁くような、甘い声。
きゅ。っと、女の子の手が俺のシャツを掴む。
多分シャツはシワになるだろうが……いい思いの対価だと思えば安いものだ。
軽い合槌を打てば、電車が減速しだしていた。

女の子がフラつく。俺はそっと肩を抱く。
びくりと小さく、よく注目していなければ気がつかない程度震えた華奢な肩。 揺れが落ち着いてくる。うら寂しくなるだろうが、俺は肩から手を離す。
こしょばゆいような声で、女の子が言った。

「あの……私、いっつも何もないような所で転ぶんですよ」
「んー、じゃあいつもの電車はどうしてるの?」
「あ、いつもは、吊革にぎゅーっと捕まってます」
「じゃあ今日は俺が吊革か」
「あはは、ですねっ」

腕の中で、明るい苦笑を漏らすリボンの女の子。


くせになりそうだ、と思ったのは永遠に秘密にしておこう。いや、そうしておかねば。
青少年のごとくばっくんばっくんする心臓と酒入ってないのにクラクラする頭を抱えながら誓う。

「あの、私、実は――」

軽く身じろぎした彼女に反応して、俺は鎌首をもたげた。
腕の中の暖かさが格段に上がったと感じたのは、ただの錯覚だったのだろうか?

電車が、さらに減速する。
覗きこんだ窓からは、コンクリートが見えていた。プラットフォームだ。
もう終着点が近い。

俺は彼女の顔を見た。
……それは、ともすればはっとしてしまうような、決意に満ち足りている視線だった。
真っ直ぐ射抜くような視線と、心地よく耳朶を打つ声。

「ずっと前から、この電車で、あなたのこと――」

電車が完全に失速した。
ぶうぅん、と重いモーター音が響き、扉が開く。

「っ!? やや、やっぱりなんでもありませんっ」

ぶんぶんと首を降る、赤いリボンの女の子。
頭の上に浮かぶ?が消えない内に、彼女は電車から早足で降りていた。
その軽やかな足どりが、ああ彼女は俺ごときが捕まえられない人なのだと苦い予感を告げる。
呆然と立ち尽くす俺を尻目に、鉄の扉が閉まっていく。
吹き込んでくる初夏の風が、彼女と俺の前髪を一つ撫でた。
ああ、目が眩む。

プシューっと音を立てて閉まる最後の最後、彼女は淡い藍色のスカートの裾を翻して、 振り返りざまにこう伝えてきた。


「私は天海春香です! ありがとうございました、吊革さんっ!」


扉が閉まる。
唸る程電気を喰って、鉄塊が走り出して行く。


――天海春香。


一日限りのいい思い出と一緒に、記憶の残滓となるはずだったその名前。 それをこの先、俺は耳にタコが出来るほど聞くことになるのだが……
まあ、それはまた別のお話ということで、今は。


「吊革さん……か。悪くない、な」


苦笑いで、その呼び名を噛み締めてみるのだった。






誰も望んでないであろう完全版。
何はともあれ はるかさんかわいいよはるかさん。

……次、誰にしましょうかね。
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comment

Secret

はじめまして

はじめまして。
おもしろいですね。文章力がすごいです。
明日から電車に乗るのが楽しくなりそうです。

ワッフルワッフル

ありがとうざいます

>>ショウさん
まずはじめに、お名前を拝見して
「ああ、エロサイトのスパムか」と思った自分の不義をお許し下さい。
予想をぶっちぎりに裏切られ涙の方流しております。嬉し涙です。
僻地へようこそおいで下さいました。死なばもろともですね。
コメントすげーうれしいです。見た瞬間思わず「ブフォッフゥ」と噴出しました。どうしてくれましょう。大好きです。

文章力については、これからも精進しなければと思っている次第です。
一般的に言われているものと逆ベクトル(使い方変とかそういう意味で。)に「すごい」文章だと思います。やはり精進します。ありがとうございますショウさん。

拍手を下さる方々も勿論ですが、一言一言に力を貰っています。
コメント、本当にありがとうございました!

No title

いつも拝見させていただいています。A.rrow.という者です。
良ければ…リンクを貼らせて頂いても宜しいでしょうか?


そういえば、自分が乗る電車にいっつもえりりん似のお姉さんがいますね。
毎回、平静を保ちつつwktkしてますw

こちらこそ!

>>A.rrow さん
いっそ潔いまでの主張に動悸が収まりません。
ようこそ地獄の三丁目。
すみません、足跡をいつもべったべったに付けさせて頂いております。今までご挨拶もせずに申し訳ありませんでした。
その上、今回はこのような嬉しいお申し出を本当にありがとございましたっ
むしろこちらからリンクをお願いしたいくらいです。
と言うかもうしちまったんですが、よろしいですか!?

電車内で中村先生似の方と毎朝お会いになると。ほほう、それはそれは。良い事ですね。実によい事です。……ええっと、つまり。

変 わ れ 。

これからもどうか末長くお付き合いください。
A.rrow様のより一層のご活躍をお祈り申し上げます。
プロフィール

ひゃくまるP

Author:ひゃくまるP
アイマスにはまりすぎて耳汁とか色々出てる人のブログです。
基本的にアイマスの小説とか書いてうはうはしてます。
あとはニコマスの紹介とか。 夢に春香さんが出てきます。
メッセやメールは→ hyakumaru0313あっとまーくhotmail.co.jp

願わくば、全てのプロデューサーさんと握手できますよう。

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